Moonlit(二次創作)

シュガービーンズワールド

2007年8月27日 (月)

■月下■ 風の便り~a little bird talk to me about it.

 魔界を統べる王の城。その一画にある、天をつくほど高い塔。明かり取り程度にしかならない、鉄格子のはまった小さな窓のある部屋の中は、塔の雰囲気とはまったくそぐわない豪奢な誂えに溢れていた。その部屋の入り口前に設けられた前室の方が、寒々しく殺風景ではあっても塔の内部としてはよほど相応しい。
 今では日課になってしまった対照的な二つの部屋の間を往き来するだけの散歩をしながら、アーシェの視線は前室の床の上をさまよった。

(やっぱり、最初から無いのかもしれない…。)

単なる目くらましの魔法がかけられているだけだとしても、十分な魔力を持たないアーシェには見破ることはできない。冷たい床に膝をついて、アーシェはかじかむ指先でその石材の感触を確かめてみた。ゆっくりと丹念に、全神経を集中して床をなぞってゆく。しかしどれだけ神経を集中しても、求める塔の出入り口を示す痕跡を見つけ出すことはできなかった。

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2008年2月14日 (木)

■LD■ theme St.Valentine~甘く、もっと甘く

 ユーゴが洋菓子職人見習いとして働いている店へ、その人物が足を踏み入れたのは偶然だったに違いなかった。しかし、いつもなら厨房の奥にいるはずのユーゴが、足りない人手を補うために店舗内へ駆り出されていたのは、必然だったのかもしれない。
 洋菓子店へ、若い男が一人で入れば嫌でも目立つ。ましてこのヴァレンタイン商戦時期の売り場は、どこも女性をターゲットに飾り立てられ、その対象でごった返していることも多い。180センチを超える長身から売り場を眺め渡す赤い瞳は、一瞬店中の視線を残らず集めた。

「…あに、うえ?」

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2008年3月13日 (木)

■LD■ theme White Day~苦くて甘い痛み

 最近よく一緒に出かける相手が、煩かったからバレンタインには(適当に買ってきた)チョコを渡した。そんなものでも嬉しかったらしく、「ホワイト・デーには期待してて!」とか言われてしまって、明日の約束を取り付けられた…。あたしの中のなけなしの罪悪感が少しだけ疼く。
 あたしもホワイト・デーには用意しているものがある。…あの娘の喜びそうなもの。
 バレンタインに、あたしと兄貴それぞれに、手作りのチョコレートケーキを持ってきてくれたから。
 あの娘の心が誰のものになるのか、気持ちが誰に向かっているのか、あたしにはまだわからない。でも、それがせめて兄貴だったらいいのに、とは思う。あたしが欲しいものは、どちらも手に入れるのは難しいけれど、あの二人がくっついてくれれば、ある意味どちらも手に入れることができる。

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2008年4月 1日 (火)

■雇主■ 鼻歌さえも切なく

「う~ん、…う~ん、困ったな~、困ったな~」

と、リュカが困っている様子なのに、私はリュカの困った顔がかわいくて大好きだから、家事をしながらつい盗み見てしまう。
 こんがりと焼き上がった様な小麦色の肌も、真っ黒ではない柔らかそうな曲っ毛も、不思議に煌めく黄金色の瞳も、首が痛くなるほどの長身も好き。…髪の間から見え隠れする角や、背中にある蝙蝠のを大きくしたような翼も、今ではリュカの一部として愛おしく思えるから不思議。

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2008年6月17日 (火)

■雇主■ 還らない時

「どういうことだ。」

 憎々しげに俺が口にした反問を、あの時とまったく変わらない愛らしさの王妃が、眉を顰めて同じ質問で答えた。

「聞いたのはわたしよ、レオン?何故貴方は、こんな同じ過ちを繰り返したの?」

領民どもの陳情が魔王に届き、俺は魔王が派遣した兵に捕らえられ、王城へ連行されていた。屈辱的にも縄をかけられ、兵に押さえ付けられて顔は床に擦り付けられていた。だが、もはやそんな屈辱も屈辱と感じられない。
 俺の中にあるのは、ただ怒りだけ。大切だと思ったものを再び失ったのと引き替えに得たこの怒りを、ただぶつける対象があれば良かった。出来るなら、この場で王妃に手を上げて魔王に消滅させられても、かまいはしない。

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