■月下■ 風の便り~a little bird talk to me about it.
魔界を統べる王の城。その一画にある、天をつくほど高い塔。明かり取り程度にしかならない、鉄格子のはまった小さな窓のある部屋の中は、塔の雰囲気とはまったくそぐわない豪奢な誂えに溢れていた。その部屋の入り口前に設けられた前室の方が、寒々しく殺風景ではあっても塔の内部としてはよほど相応しい。
今では日課になってしまった対照的な二つの部屋の間を往き来するだけの散歩をしながら、アーシェの視線は前室の床の上をさまよった。
(やっぱり、最初から無いのかもしれない…。)
単なる目くらましの魔法がかけられているだけだとしても、十分な魔力を持たないアーシェには見破ることはできない。冷たい床に膝をついて、アーシェはかじかむ指先でその石材の感触を確かめてみた。ゆっくりと丹念に、全神経を集中して床をなぞってゆく。しかしどれだけ神経を集中しても、求める塔の出入り口を示す痕跡を見つけ出すことはできなかった。


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