Ultimathule(二次創作)

ウルティマオンライン(更新終了)

2001年3月 3日 (土)

■UO■ ラプソディー・イン・ブルー~about Other People's Affairs

「ちぇっ、もうちょっと早く顔を出していればよかったなぁ…。ついてないや。」
レイルは、ギルドハウス入り口の階段に仏頂面で腰を下ろした。
「なんだ、食いっぱぐれたのか?」
同じギルドのメンバーであるレインが、片手をあげて挨拶しながら近寄ってきた。その手には、先刻レイルと入れ違いに姿を消した料理人、一部では伝説になりつつあるカーライル自らが焼き上げて配っていた菓子の包みが下げられている。その包みから視線を外せないまま、レイルも片手をあげて挨拶を返した。
「美味かったかい?」

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2001年3月13日 (火)

■UO■ はじまりの地~Sammy(1)

その声に誘われて、わたしは気がつくと町の雑踏の中に立っていました…。
背負い袋の中には、短剣と取って付きの燭台にたてられた蝋燭に赤い表紙の小さな綴り本、はさみと裁縫道具と巻布が1本、そして100gpの金貨。それが財産の全てでした。
誰もが慌ただしく足早に通り過ぎていくのを眺めながら、来る場所を間違ったのでは…と心細く思いはじめていたとき、いきなり後ろから、私を誘った声の主が話しかけてきました。

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2001年3月14日 (水)

■UO■ 移住~Sammy(2)

ゲートの向こう側

NickはBuritain第一銀行から南へ足早に、町の外へ向かって後ろを振り返る素振りも見せずに移動していきました。
いつも狩りに出かけていた東側の森とは違い、視界は開けていて、いきなり襲われることはなさそうでしたが、やはり彼との距離が開けば開くほど危機感がつのるわたしは、必死で後を追いました。
やがて、野原の中程に青白い輝きが見えたと思うと、Nickはやっと歩調をゆるめて振り返ってくれました。後になって「まるで捨てられそうになった子犬が、必死で主人の後を追っかけてるような顔してたぜ」と言われましたが、あの時は、本当にそんな気持ちになっていました。

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2001年3月15日 (木)

■UO■ 幕間~Sammy(3)

虚脱

 Nickという相棒をなくしてから暫くというもの、わたしはしばらく宿から出ることをしませんでした。
客室の寝台の上に腰掛けたまま、空を見つめていたり、ろくろく食事をとることもせず、突然泣き出したりという、他の人から見ればかなり薄気味の悪い有様でした。そんな状態であるにもかかわらず、宿の主人が客室を使い続けることに文句も言わずにいてくれたことは、いくらか私の気持ちを慰めてくれました。
 その日もいつものように、寝台の上で惰眠を貪っていたわたしは、隣の客室にどやどやと人の入ってくる物音に目を覚ましました。

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2001年3月17日 (土)

■UO■ 新しい世界~Sammy(4)

誓い

 Andyと二人で、彼の別れた兄弟を尋ね歩き、RazyをYewで、NastyをMinocで、MickyをVesperでそれぞれ見つけだすことが出来ました。
 彼ら兄弟の間でどんな話が行われたのか、詳しいことは聞かせてもらっていませんが、Andyと並んで私の目の前に現れた4人は、わたしとの「兄弟の誓い」をたてることを宣言しました。
 Britannia全体が、British公が発表した新しい世界への移住計画の話題で持ちきりでした。

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2001年3月25日 (日)

■UO■ タイム・アフター・タイム~about Other People's Affairs

 設置を終えたばかりのギルド石の傍らに腰を下ろして、アルファは伸びをした。

「これで、あたしも曲がりなりにもギルドの長ね。」

その手が愛おしげにギルド石を撫でた。

「もっとも、他に誰がメンバーになるってあてもないけどね。」

苦笑いをして、アルファが腰を上げようとした時だった。

「おぉっとぉ!これは運命の出会いだ!」

大げさな野太い声が頭上から降ってきた。

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2001年3月27日 (火)

■UO■ メッセージ・イン・ア・ボトル~about Other People's Affairs

「SOSボトルに不良品があるらしい。」
そんな噂がまことしやかに、ブリタニア全土で囁かれだしたのは、まだ春も浅い頃だった。

サミィは、店の隅にある、ムーンリットが指定した保管庫の蓋を開いた。
「うーん、これだけあるとさすがに壮観かも…。」
中腰でつぶやくその後ろに、緑色の人影が近づいてきた。相手が声を発するより先に、サミィは振り向いて話しかけた。
「ご注文通り、SOSボトル100本です、けど…、ほんとにいいんですか?レイルさん。」
緑に染め上げられたローブに身を包んだレイルは、ゆっくりと頷いた。
サミィは、レイルの表情に胸が痛くなった。
(どうしてこんなことになってしまったのかしら…。気まぐれにしても、神様も悪ふざけがすぎるわ。)
保管庫の中のSOSボトルを見つめて動かないレイルのために、サミィは椅子を置いた。
「どうぞ座ってください、ね?
ついでに何か飲み物も持ってきますから、少しずつやりましょう。」
レイルは促されるままに椅子に腰掛けた。
「ありがとう、サミィさん。」
見上げてきたレイルの口元は笑顔を作ろうとしていたが、その目がなにかのせいで充血していることをサミィは承知していた。だからこそ、目を合わせることが出来ず、逃げるように飲み物を取りにその場を離れたのだった。
しばらくサミィの後ろ姿を見送っていたレイルは、ふいに日が落ちたことに気づいた。習慣的に周囲を明るくする呪文を口にすると、開け放された保管庫のボトルの群を改めて見つめた。
「まだもっと伝えたいことがあるかい?おいらはそれを…見つけることができるかな…。」
レイルはSOSを一本取り出すと、中の紙片をつまみ出した。

発端は、5日ほど前に遡る。
いつものようにSOSのサルベージに出かけたレイルは、引き揚げ地点で苦戦していた。
場所に間違いはないはずなのに、いっこうに宝箱の当たりがないのだ。
気がつくと、甲板の上は宝箱以外の釣り上げ品で埋まりそうな勢いだった。
「なんなんだ、いったい。勘弁してくれよぉ…。」
レイルはため息をついて、釣り竿を置いた。目の前には累々と壊れた樽や人骨、色とりどりの貝殻や海水に晒されて色褪せた絵が放り出されている。
「あれ?」
小さな絵の影に光るものがあるのに気がついたのはその時だった。レイルが不思議に思って絵を取り上げると、ガラス瓶が転がりだした。
「SOSボトル…?」
焦げ茶色のなんの変哲もない瓶の中に、小さく折り畳まれた紙片が見える。レイルは、自分のバックパックのSOSを数え直した。サルベージのために持ち出したボトルの数と引き上げが完了したものを足すと、今この手にしているSOSボトルは、余計だった。
有り得ないことだが、この引き揚げ作業のなかで一緒に釣り上げたとしか思えなかった。
「もしかして、特別なお宝にありつけたりして…?」
期待に胸を膨らませながら、レイルはそのSOSの中身を取り出した。

こんな悲惨な状況であるにもかかわらず、心安らかでさえある私を、神様はお許し下さるでしょうか?
愛するお父様のためとはいえ、私はやはり、あの方のもとへ輿入れするのが厭で仕方なかったのです。
でも、こうして船が遭難してしまい、漂流している今となっては、そのことを考えずに済みます。
このような事故ということであれば、あの方もむげにお父様を責めたりはなさらないでしょう。
約束はきちんと果たされ、花嫁の一行は指定されたとおり出航したのですから…。
ただ、この遭難が、私の小さな願いから引き起こされたものであるとしたら、供として付き添ってくれた使用人達や、船旅に慣れないだろうと心を砕いてくださった船乗りの皆さんには心から申し訳なく思います。
でも、この事は、神父様もおられないこの船上では誰にも打ち明けるわけにはいきません。
万が一にも無事にどこかの港へたどり着いたら、私は契約履行のためにきちんと行動しなくては行けないのですから。本当はこのまま逃げ出してしまいたいと思っていることを、誰にも知られるわけにはいかないのです。
だから、この手紙は誰の目にも触れないようにこのガラス瓶に入れて、窓から海へ投げ捨てます。
もし、この手紙が心ある方のもとへ流れ着いたなら、どうか私の告解として神父様のもとへお届け下さい。

無意識のうちに、レイルはその文面を何度も繰り返して読んでいた。
急いで書き付けたらしい綴りの文字から、見も知らぬ相手の静かだが強烈な感情がほとばしっていた。
「政略結婚…てとこかな。これって、いつの頃の話だろう?
遭難かぁ…どうなったんだろうなぁ。」
そうつぶやきながら、レイルはもう一度甲板の上を見渡した。
ふと、手紙入りの瓶を見つけたときの小さな絵が目に入った。
「あれ?…なんか…。」
よく釣り上げる他の絵と少し違っている。レイルはその絵をもう一度手にとって、よく見た。
色褪せて、多少明瞭さに欠けてはいるが、明らかに花嫁衣装を身につけた女性の肖像画だった。
「この手紙の主とか…?まさかね?」
確信を得られないながらも、レイルは絵を裏返してみた。
果たしてそこにあったのは、彼が望んだものだった。
『輿入れ前の花嫁。子爵家令嬢イザベル、16歳。』
レイルはもう一度絵を表に返した。
画家の腕がいいのか、描かれている少女の魅力なのか、レイルの目はその画面から離れなくなった。
派手さはないが上品なドレスが、花嫁の可憐さを引き立てている。ベールに半ば隠された花嫁の顔は、それでもその輪郭を十分に伝えている。ほつれて額にかかる髪の一筋が、彼女の美しさと花嫁衣装の華やかさの中にどことなく悲しみを感じさせる。
「あー、いつまでここに泊めておくんですかね、旦那。」
船頭に声をかけられるまで、自分が彼女の肖像画に長い時間見入っていたことを、レイルは気がつかなかった。

習慣に逆らえずギルドハウスに顔を出してみたものの、レイルは上の空だった。
昨日引き揚げた手紙と絵のことが頭から離れない。
結局あの引き揚げ品は全て自宅の保管庫の中にしまってあった。文面通り、どこかに届けるべきかとも考えたのだが、届け先の神父なる人物の居場所について、レイルには知る術がなかった。それと同時に、彼女の形見であるかもしれない品を、どうしても手放す気になれなかったのだ。
ぼんやりと海を眺めるレイルの耳に、一つの会話が飛び込んできた。
「…でね、そのSOSの中身ときたら、座標なんてどこにもなくって、ただの日記みたいな手紙なの~。がっかりだよ~。
でもね、こんなこと初めてだから、一応捨てずにとってはいるんだけどぉ、誰か買わない~?」
笑いあっている彼らの輪の中に、レイルは飛び込んでいった。
「そっ…それ、おいらにも見せて!」
レイルの勢いに驚きを隠そうともせず、それでも彼女はその紙片をレイルによこした。

お父様はお元気かしら?
出発の日に私の部屋まで見送りにきてくださって、頭を下げられたあの苦しそうなお顔が頭を離れません。
船の揺れにもだいぶ慣れて、海が凪いでいるときには甲板に出て潮風に当たったりすることもできるようになりました。
女中達は、日に焼けたりしたら、旦那様がお怒りになるって小言を言うけれど、それがなんでしょう?
日に焼けた私を見て、あの方が私をお気に召さないのなら、それこそ願ったり叶ったりではなくて?
あの方のお屋敷に入れば、お父様と暮らしていた頃より、もっと自由なことは許されない生活になるのですもの。今は、今だけは私のやりたいようにするわ。
今日はじめてイルカを見たの!
2頭が寄り添うようにして泳いでいて、近くにいた船の人が、あれは夫婦者に違いないって言ってたわ。
もうすぐ子供が産まれる季節なんですって。
その2頭はなんだか楽しそうに歌ったり、喋ったりしているように見えたわ。
私、微笑ましいと思っていたのに、急に悲しくなって自分の船室に戻ってしまった…。彼が気にしていないといいのだけれど。
イルカを羨ましいと思うなんて、おかしいかしら?
他人は、裕福な商家へ嫁ぐ私を幸せだと言うけれど、同じ貴族からは蔑まれていることを、私は知っている。
例えお金持ちでも、お父様よりお年を召した、逢ったこともない方との縁談を喜べないのは私だけなのかしら?
こんなことを考えること自体、許されないことなのかもしれない…。
これも瓶に入れて海へ流しましょう。誰かが私の懺悔の言葉として、許してくださいますように。

「レ…レイル?」
呼ばれて、レイルは我に返った。ちょうど目から溢れた涙が、手紙に染みを付けたのと同時だった。
「あ、ごめん。おいら…これ、買うよ。
いくらだい?」
持ち主はレイルの涙に毒気を抜かれていた。
「あ…いい。あげるから、持ってって…。」
レイルは急いで、目をこするととりあえず手元にあった金貨を全部、相手の手の中に押しつけた。
「もし、また同じようなものがあったら、おいらに教えてくれよ。」
そう言って移動の呪文を唱えると、レイルの姿はかき消えていた。
金貨を握らされて取り残された元持ち主と、その話の輪に加わっていた一団は、レイルの行動に呆気にとられていた。真っ先に口を開いたのは鍛冶屋のフィリアだった。
「レイルさんってあんなに感情移入の激しい人でした?」
皆が首を傾げている頃、レイルはギルドハウスがある隣の島にある店の扉をくぐっていた。

「いらっしゃいませ~、…って、レイルさんじゃないですか~。
こんにちわ~、お珍しいですね。」
機織り機から振り向きざま、店の主であるサミィはたたみかけた。
「うん、ちょっと頼みたいことがあって来たんだけど、いいかな?」
「はい、伺いましょう~。どうぞこちらへ。」
レイルは勧められた椅子に腰を下ろして、部屋の隅に立つ売り子を見据えたまま口を開いた。
「サミィさんの所で、SOS、安く売ってるよね。…おいらに、100本ほど売ってもらえないかな。」
突然の大口の注文に、閑古鳥相手の商売が専門の店主は、自分の耳と相手の正気を疑い、動けなくなった。

その時店主を驚かせた注文品を手に、当の注文主であるレイルは、今日何度目になるかわからないため息をついた。
飲み物を取りに行ったサミィはまだ戻ってこない。
ふと、店の玄関先に人の気配がしたかと思うと、扉が勢いよく開かれた。
「サミィ嬢はご在宅かな?」
女性にしては少し低めの、しかし朗々ととおる声で、その人物は店主を呼ばわった。艶やかな黄金の髪を無造作に背中へ長く垂らし、鮮やかな紺碧に統一された衣装が、その透き通るような肌を引き立てている。
最初は声に、次にはその姿に、レイルの視線は釘付けになった。
「おや、お客様がいらしたとは気がつかなかった。失礼。」
彼女は、レイルの視線に気づいて微笑むと、優雅に会釈をした。そして、彼の手にしている瓶と足下の保管庫に気づくと片方の眉を軽く上げて見せた。いたずらっぽい表情が、そのまま口調にも表れている。
「これはこれは。
この度は大口のご注文をいただきまして、恐悦至極に存じます。して、商品につきましてはご満足いただけましたでしょうか?」
「あ、ムーンリットさん、こんばんわ~。」
狐につままれたように呆然としているレイルと、婉然と微笑むムーンリットの間に、騒がしくサミィの声が降ってきた。
「あ、レイルさん、ご紹介します~。」
バタバタと階段を駆け下りてきて、慌ただしく飲み物を乗せた盆を手近な台に置くと、サミィはまだムーンリットから視線を外せないレイルに、彼女を紹介した。
「吟遊詩人のムーンリットさんです。うちでは財宝発掘関連商品を卸していただいてます。
ムーンさん、こちらPAFの一員でレイルさんです。今回の大口注文のご本人です~。」
ムーンリットは改めてレイルに会釈して片手を差し出した。
「はじめまして。ムーンリットと名乗ってブリタニアを放浪しております。以後よろしくお見知り置き願います。」
ここまできて、レイルはやっと我に返り、慌てて差し出された手を取った。
「お、おいら…じゃない、私はレイル・シェイドと申します。
初めてお会いする方への礼を尽くすこともせず、失礼致しました。
お許し願えるのであれば、こちらこそどうぞよろしくお願いいたします。」
2人の堅苦しい挨拶に肩をすくめて、サミィは飲み物を並べはじめた。

「差し支えなければ、この発注の理由をお聞かせ願えるだろうか?」
何杯目かのワインを手酌で注ぎながら、ムーンリットがレイルに尋ねた頃には、酒の力もあって、お互いはすっかりうち解けていた。ムーンリットが杯を先頭に、顔をレイルの方へ寄せる。
「わたしも聞きたいです~。」
下戸でしらふのサミィもムーンリットの真似をして、レイルへ顔を近づける。レイルは自然と上半身を引く姿勢になった。
「うまく、説明できないんだけど…。」
女性2人が同様にうなずき、先を促す。レイルは覚悟を決めて、全て話すことにした。
まずは瓶に入っていた手紙のこと、そしてイザベルの肖像画のこと。自分でもわけが分からず、ただ気になって、他にも彼女が流した手紙があるのなら見つけだしたいと思っていること。SOSは、その手段の一つだったこと…などが語られた。
「それは恋ですね~。」
嬉しそうにサミィが言う。ムーンリットが横で頷く。レイルが大きく頭を振った。
「な、なんでそうなるの?サミィさん…。ムーンさんも、頷かないでくださいよ。
おいら、そんな会ったこともない、生きているのか死んでいるのかもわからない相手にそんな…。」
レイルに最後まで言わせずに、サミィが人差し指を突きつけた。
「何かに心を惹かれたら、それは十分、恋ですよ!
なんか、ロマンチックでいいですね~。素敵です~。」
「サミィさん、勝手に盛り上がらないでくださいよ~。実は酔っぱらってるんじゃないでしょうね?」
「まぁ、彼女の言うことも一理ある。確かに絵姿であっても、イザベルの美貌は男心を掴むには十分すぎるだろうからね。」
「ムーンさんたら、まるで、彼女のこと知ってるみたいな口振りです~。」
「知っている、もちろん。」
にっこり微笑むムーンリットの顔に、サミィとレイル、2人の視線が釘付けになった。
「なぜ今頃、彼女の手紙がレイル殿の手元へ転がり込むことになったのかは、人の身にはわかりかねる。
が、一通目は偶然でも、二通目は必然かもしれない。そして…。」
ムーンリットの白く華奢な手が、2人の目の前をひらひらと舞った。まるで手品のように、その指先にはいつのまにか折り畳まれた紙片が挟まれている。
「三通目は運命かもしれない。」
「イザベルの幸福とは言えない輿入れの顛末も、彼女がどんな人生を送ったかも私は歌にして語ったことがある。
実際彼女と会ったこともあるのだから、これは信用してもらっても差し支えないとだけ言っておこうか。」
レイルの腰が宙に浮いて、その顔がムーンリットのすぐ前まで突き出された。
「教えてください!彼女は…イザベルはどうなったんですか?」
ムーンリットは愛用の竪琴を取り出すと、その弦を軽く弾いた。澄んだ音が、緊張する室内に響く。次いで、ムーンリットの声が、静かに流れ出した。

体裁を繕うのに必死な父親は、娘の一人と引き替えに豪商から多額の援助を取り付けた。
娘は悲嘆にくれながら、それでも愛する父のため、黙って船に乗り込んだ。
折しも嵐の多い季節、船は洋上で荒れ狂う風と波の餌食になった。
沈むことは避けられはしたが、帆柱を折られ、乗組員の大半を奪い去られた船は、ただ波間に浮かぶ木の葉と変わりない。
僅かな望みは潮の流れと風の向き。天が味方すれば、いずこかの港へたどり着けよう。船に残された誰もが、天に祈った。
ただ一人、花嫁になるべき娘を除いて。


そこまで歌い上げて、竪琴の弦を押さえ、ムーンリットはレイルを見た。
「ここまでが、君が手紙を読んだあたりの事情だね。」
レイルの喉が何かを飲み込むように動いた。サミィは睨みあうようにお互いを見ている2人を交互に見るだけしかできない。
「続きを聞くかね?」
レイルが大きく頷いた。ムーンリットが竪琴を抱えなおす、とすぐにその唇から歌声があふれ出した。

来る日も来る日も陸地は見えず、残された人々の祈りが空しく響く。
部屋に籠もって祈る娘は、一人懺悔を繰り返す。海の沫と果てることを望む己の愚かさと、父親への愛に挟まれて、ひたすら涙し、許しを請うた。
聞かされるのはただ波ばかり、風ばかり。応えるものは誰もない。
船の食事は底をつき、ワインも饐えて澱みを抱く。
潮に染まった甲板を涙の潮が塗り込める。
帆布さえない帆柱に、絶望の声が絡みつく。
波も風も死に絶えて、鉛のような海原に、嘆きと苦悩と花嫁を乗せて、船は術無く立ちつくす。
昼の日差しは焼け付くようで、夜の闇間は凍えるばかり。


そこまで歌って、ワインに手を伸ばしたムーンリットは、2人の聴衆が固唾を呑んで自分を見つめていることに満足を覚えて微笑んだ。ワインが唇を湿し、喉を潤すと、竪琴を持ち直して三度歌い出す。

しかして、ついにその日は来た。
見れば、水平線の上に現れたのは無傷の帆柱、たくましい船体。
行方の知れぬ花嫁の一行を捜しあぐねて、港を出港した一隻の船。
甲板は歓喜に沸きかえる。力無く座り込んでいたどの顔も、力づけられ笑顔を見せた。
朗報にも扉を閉ざし、一人悔いる花嫁を除いて。
助けが近づくにつれて、甲板は騒ぎは熱くなる。
助けが近づくにつれて、花嫁の表情は凍りつく。
助かったと高らかに声を上げる甲板に、助けなど要らないと口に出せない花嫁。
頼りない船は寄せられた船の波しぶきを受けて最後の動揺をみせて、果てた。
無傷の船に次々と人が乗り移る。花嫁とその船室の外に立ちつくす従者を除いて。
役目を終えつつある痛々しい有様の船に、救出船の指揮者が降り立つ。
自ら花嫁を救出するために、静まりかえった船室へ降りる。
従者は、相手の身分を知らされて扉をふさぐ理由がない。
覚悟を決めた花嫁は、入ってくる相手と対峙した。
現れたのは、端正な姿の若者。まっすぐに花嫁を見据えて、恭しく礼を取る。
花嫁は、気力を奮い起こして顔を上げ、相手に向かって礼を返す。


「なんだか、ドラマですね~。」
サミィが頬杖を付いたまま、ムーンリットを見ながら呟いた。それに気づいて、ムーンリットはゆっくりと竪琴の弦を押さえた。
「この後、この2人がどうなったか想像がつくかね?」
この問いかけにレイルは首を振り、サミィは頷いた。
莞爾としてサミィに向き直ったムーンリットは、彼女を促した。
「どうなったと思う?」
「2人はきっと、恋に落ちたでしょう?
夢見がちな少女の前に救いの手を持って現れた男性が、十分な魅力を伴っていれば、理由も時間も必要ないと思います~。」
レイルがその発言を呆然と見返す。視線があったサミィは肩をすくめてみせた。
「ご明察。するどいね。
この若者は、なんと彼女の結婚相手の息子だったのさ。元々この結婚に反対していた息子は、この傷つきながらも毅然とした花嫁の態度に、絵姿以上の魅力を感じた。
そして、その場で父親には渡すまいと決心したというわけさ。」
「ドラマです~。」
サミィがうっとりと呟いた。レイルの表情は変わらない。ムーンリットは苦笑した。
「そこからは、まさにメロドラマ。手に手を取っての逃避行。
もちろん父親は激怒したが、やがて我に返って折れたのさ。
どう見ても息子の方が花嫁と釣り合う、とね。」
ムーンリットが空になった杯をサミィに向けると、新しい瓶の栓が抜かれて注がれた。サミィは、レイルにも杯を干すように視線で促したが、レイルはゆっくりと首を横に振った。
「父親の怒りが解けて、戻った2人はこの上もなく幸せに暮らした。他の誰もが羨むほどにね。」
ムーンリットの白い指先が、竪琴の中で一番短い弦を弾いて微笑んだ。
「イザベルの物語は、これでお終い。」
レイルがためていた息を長く吐き出すと同時に、その口元から言葉がもれた。
「よかった…。」
机に額をこすりつけるように突っ伏したレイルの背中を、ムーンリットが軽く叩いた。
「彼女の安否が知れて、安心したかい?
それにしてもずいぶんと入れ込んだものだねぇ。」
その視線が、100本のSOSボトルに注がれる。中のメッセージが引き出されたものは、まだ片手の指に満たなかった。
「これはもう、必要ないね?」
開封していない分の代金はお返ししなくてはね。」
顔を上げると、レイルの視線は、ムーンリットの笑顔とぶつかった。
「い…いいんですか、それで?」
「どうしても必要でないのなら、必要としている相手に譲ってやるのも親切心だと思っていただければ幸いだ。」
「ありがとうございます。」
「そろそろ、夜が明けます~。
お二人とも戻ってお休みなられた方がいいですよ。」
空になったワインの瓶と杯を片づけながら、サミィは2人を促した。
今日は、3人とも寝不足で辛い一日を過ごすことになるに違いない。世界中が起き出す前にせめてもの仮眠を取りたいという思いからでた宣言だった。
まずレイルが立ち上がった。
「そうするよ、ありがとうサミィさん。
そして、ムーンリットさん、本当に、イザベルのことがわかってよかったと思います。
SOSのことも、ほんとにありがとうございました。」
優雅に会釈をして、ムーンリットはレイルを見つめた。
「ムーンと呼んでもらってかまわない。親しい人には皆、そうしてもらうので。
ではまた、いずれお会いできる日を楽しみに。
安らかな眠りと楽しい夢が、レイル殿に訪れるように祈らせていただこう。」
ムーンリットの言葉に深く礼を返したレイルは、そのままかき消えるように姿を消した。
「清算は起きてからだね、サミィ。」
問いかけるムーンリットに、サミィが肩をすくめて応えた。
「城まで戻るのは面倒だ。私もここで一緒に休ませてもらおうかな。」
「どうぞ~。わたしはこれを片づけてから寝ますから、お先にお休みになってください~。」
階段を欠伸をしながら上がり際、この日最後の歌声がムーンリットの唇から流れ出した。
「待っているから、はやくおいで。」

その後、不良品のSOSボトルの話は誰からも聞かれなくなった。

2001年3月27日校了

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2001年5月 4日 (金)

■UO■ シー・ドント・ノー・ミー~about Other People's Affairs

「あれが噂に聞くこの島の名物ギルドハウスか…。」

 そうひとりごちて、男は帽子のつばを鼻先へと下げた。かなり離れた場所からでも、大理石造りのテラスを備えた建物の玄関先で繰り広げられている光景は、派手な音と明かりをともなっていて、よく見えた。
 建物の周りで所狭しと駆け回るギルドメンバー達。老若男女を問わず集って、端から見れば乱痴気騒ぎをしているようなそれらの顔は、どの表情も享楽的にあるいは刹那的に見えるかもしれない。…その影に繰り広げられる努力を知らなければ。
 男は、知人宅で見つけた情報紙を読んだことで、この場所に立つことになった。それは、このブリタニアでも屈指と目されるギルド、People with Angelic Feather(通称PAF)の広報誌的存在である「Zipang News」だった。

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2001年5月17日 (木)

■UO■ ビー・マイ・ベイビー~Brothers & GIO

 常ならば2人以上が同時に居合わせることなど滅多にない石造りの小さな塔の中に、この日5人の男達が集まっていた。

 基本的に作業や修練の場として提供されている塔の中には、取り立てて和めるような場所はない。5人は誰が言い出すともなく屋上へ上がり、三々五々適当に腰を下ろした。

「うへ、俺のマントが埃だらけだぜ。まったく店の方といい、ここといい、おまえさん達は掃除の仕方も知らないのか?」

 5人の中で一番体躯の大きい男が、腰掛けた椅子から舞い上がった埃に慌てて飛び退いた。座る前に座面を確認していた痩せた、黒衣の男が帽子の影から冷ややかな視線を投げて口を開いた。

「埃で死ぬわけでもあるまいに大げさですね、"右目のジオ"。俺達はそういう些末なことには煩わされたくないんです。まぁ、あなた方のようにギルドハウスを小ぎれいに保つために人を雇えるような身分になれば話は別ですが…。」

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2001年6月28日 (木)

■UO■ 警護の捕虜~Little Things Fabrication

 赤味を効かせた黒が基調の装備に身を固めたミナクスの警備兵達が、街を闊歩していた。
 殺伐とした風景の広がるこの世界にあっても、陽気な喋り声と酌み交わされる杯のぶつかり合う音が絶えない街。そんな陽気さであふれ返っているのが常にもかかわらず、この数日はまるで街全体が喪に服しているかのような物々しさだ。
 街の住人は息を潜めるようにして暮らしていた。外出することも極力控えるように、と誰からともなく言い出した。
 衛兵の数が多すぎて、ぶつからないように歩くのが一苦労なのだ。ぶつかれば何を言われるかわからない恐怖感。
 警備兵が守っているのは一般市民ではなく、自分達の誇りと名誉だということは子供でも知っていた…。

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2001年9月18日 (火)

■UO■ twittering Chirpy-さえずる声~Little Things Fabrication

生まれて(きたときのことを覚えているわけじゃないから確かじゃないけど、少なくとも物心ついてからは)この方、ずっとこの島で暮らしてきたの。
だから、町中で知り合って、とても仲良くなった男の子が突然

「ここを出て、もっと大きな町で暮らしてみたいと思わないか?」

って言ったとき、その言葉の意味も、そこに匂わされていた気持ちも理解することができなかった。
あたしはきっと、いきなり猫だましを喰らわされたような顔をしてたと思う。

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2001年10月28日 (日)

■UO■ Fallen Sybil-奈落の巫女~Little Things Fabrication

 岩を穿つ水音が、闇の中にゆっくりと、しかし絶えることなく神託の洞窟の中に響いていた。

 同じ神殿の中にある、禊ぎの泉から上がったばかりの巫女は、一糸纏わぬ姿に流れる髪を払おうともせず、泉の水が頭上から足下へと伝い落ちていくに任せていた。その足どりは、泉が僅かに放つ煌めきの他には何もない闇の中を迷うそぶりもなく、泉に入る前に脱ぎ置いた衣装の方へと向かっていく。
 その間も、巫女の唇は静かに低く、聞き取ることのできない言葉を紡ぎだしていた。

 衣装のすぐそばまで彼女が近づいたとき、暗闇の中に呼ばわる声が深く響き渡った。

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2004年9月13日 (月)

■UO■ 一角獣の花嫁~Little Things Fabrication

主従の関係から解放されて、私は気の向くままに歩を進めた。
人間が多い。不自然な造形物は不愉快だ。舗装された道は蹄を痛める。
なぜ人間どもは、このように世界を踏みにじるのか。理解に苦しむ。
やがてはおのれらの身に、降りかかってこようことに頓着する気配すら見えない。
太平楽なことだ。
故郷の森へ還る道を模索しながら、私の中の苛立ちは少しずつ大きくなる。
あまりにも人間どもが騒がしいせいだ。不遜の輩め。
この蹄に掛けて、永遠の安息を与えてやろうか…。

凶暴な誘惑に駆られそうになった刹那、私の耳に抗いがたい音が鳴り響いた。
乙女の押し殺した嗚咽だ。
私は泣き声のする方へ移動した。路地奥の粗末な小屋からだ。
小さな明かり取りの窓から、中を覗くことができた。
汚れた食卓の上に顔を伏せて、小さな肩を震わせて乙女が泣いている。肩から卓の上へとこぼれ落ちる黄金色の豊かな髪が、灯りもない部屋の中でぼんやりと浮かび上がっている。
私は磁石に引き寄せられるように、乙女の傍へ行きたい衝動を抑えることができなくなった。
小屋の入り口を探し当てると、私は躊躇することなく扉を軽く蹄で蹴った。
中で嗚咽が止む。もう一度、蹴る。
顔を上げた気配がする。また、蹴る。
「誰?」
怯えた声が中から問うた。私は小さく嘶いた。
椅子をひく音がして、床板の軋む音が戸口へと近づいてくる。怯えた声が再び問う。
「どなたですか?」
私は嘶き、扉を蹴った。戸口の掛け金がはずされる音がした。少しだけ扉が、内側に開かれた。
自分の姿を相手がよく確認できるように、私は向きを変えた。
扉の内側で息を呑む気配がした。
あぁ、乙女よ。私はそなたに何の危害を加えることもありはしない。扉を開け放ち、私を迎え入れておくれ。
「ユニコーンだわ…。なぜ、こんなところに?」
扉がさらに開かれたところを逃さず、私が角を軽く差し入れると、乙女は私が小屋の中へ入ることを止めようとはしなかった。小屋の中央まで進んで乙女を振り返ると、彼女は後ろ手に扉を閉めて私を見つめていた。
「噂には聞いたことがあるけど、見るのは初めてだわ。…なんて綺麗なの。」
乙女の賞賛の言葉が耳に心地よい。私は近づいて、まだ涙の跡が残る乙女の頬に口づけた。
「慰めてくれてるの?ユニコーンが女性にしか心を許さないっていうのは、本当なのね。」
微かに笑みを形づくる口元が、乙女の可憐さを引き立てる。
私はもはやこの乙女に心を奪われているに違いない。
少し乱れている乙女の髪に、角を差し入れて梳いてみた。柔らかくて、艶やかだ。
彼女の心も解きほぐされていくのが感じられる。
乙女の白い腕が私の首へとまわされた。
「慰めてくれてるの?優しいのね、ありがとう。」
何がそなたをそんなに哀しませるのだ?黄金の髪の乙女よ。
乙女が私の問いかけに目を丸くして見つめ返す。その瞳は、まだ涙の痕跡をたたえて吸い込まれそうに澄んでいる。
「言葉が解るの?そんなことって…?」
そなたが私に心を開いてくれたからこそ、できることだ。私の心は、既にそなたに捧げられている。
乙女の頬がバラ色に染まったのが、暗い小屋の中でも知れた。その早鐘を打つ鼓動が、私の中に流れ込んでくる。
「まるで貴婦人相手みたいに振る舞ってくれるのね。父さんやそのへんの男達よりよっぽど紳士だわ。」
乙女相手にどうして無礼な態度などできるものか。まったく、私には人間どもが理解できかねる。
そなたを苦しみから救うことが私にできるなら、喜んでそうしよう。私はこれから故郷へ還る。
老いも病も貧しさも悲しみもない、常春の国だ。そなたたちは…、そう、ティル・ナ・ノーグと呼ばわっているな?

乙女の逡巡は私にも解る。たとえ人間であっても、愛する乙女のことならば理解に努めるのが種族の誇りだ。
そして、私は彼女を伴い、帰郷するという誘惑に勝つことができなかった。森の仲間達は私の連れ帰った伴侶を見て、私に羨望の眼差しをよこすに違いない。
ここに留まり、そなたが日々の暮らしに摩耗されていくことを思うと私の心は痛む。そなたのたおやかさ、美しさをいつまでも保ち続けて欲しいと思うのは、私の勝手にすぎるだろうか?
「でも、何もしてあげられないわ。あなたに乗るだけの知識もない…。」
まるで恥じ入るかのように小声で呟く乙女に、私は体をすり寄せた。
何も要りはしないよ。そなたが私に「付き従う」と誓ってくれさえすればいい。他には何も必要ない。
さすれば、そなたは私の花嫁として、常春の国に迎え入れられる。…どうだろう?

乙女は私の背後、粗末な小屋の中を見回した。そして自分の荒れた手を、みすぼらしい服を見下ろした。
私は最後の一押しに、彼女の頬に顔を寄せた。
私に与えうるものは、すべてそなたに捧げよう。そなたの美しさは、身を飾ることでは表せぬ。
そなたには金糸銀糸の重たい衣装より、色とりどりの芳しい花々こそが相応しい。

ついに乙女は頷いた。
「…ついていくわ!」
嵐のような歓喜が私の血を逆流させた。私は喜びの雄叫びを響かせると、激情のままに乙女の体を拾い上げ、自分の背中へと放り投げた。
小屋の扉を開けるのももどかしく、軽く蹴り壊した。その戸口のあたりで、なにかが悲鳴を上げたような気がしたが、気にもならなかった。
私はまさに一陣の白い疾風となって町を飛び出し、脇目もふらずに故郷へ向かって駆け抜けたのだった。

町は、その小さな小屋の有様に騒然となった。
荒々しく壊された入り口の扉、踏みにじられた男の死体。そして、小屋の中の夥しい血だまり…。
衛兵達が野次馬を整理するために取り囲んだ小屋の中で、検死が行われた。
「これは…ユニコーンだ…。」
血の海に残されていた、元は白かった毛のひとつまみを手に乗せて、男は苦々しく呟いた。
世界は常に変わり続けている。人の世も、人にあらざるものの世も同様に。
かつて処女の守護としてその名を馳せた一角獣も、霊薬たる角の乱獲と俗世への執着を断ち切れない乙女達の裏切りによって、絶滅に瀕した時期があった。彼らの種族の穏やかさと優しさが徒となったのだ。
しかし、ある秘密結社はこの種族が世界から消え去ることをよしとしなかった。
そしてわずかに生き残った個体を捕獲保護し、人工交配を繰り返して種族を変化させた。
彼らは種族の特性を損なうことなく、その性質を、より順応性が高め、利己的な思考を取り込むことに成功していた。
もはや一角獣は草食を拒み、流血を厭わない。
そしてなにより、処女との誓約は、自らの花嫁に永遠の安息、いわゆる死を与えることによって成就されることになった。もはや何人も彼らから処女を奪うことは叶わず、処女自らをしても一度交わされた誓約を破棄することはできなくなった。
一角獣たちは愛する花嫁の血を浴びて、凄絶なほどに美しいという。そしてなにをするでもなく、その毛皮は再び光り輝くような純白を取り戻すのだ。
このことについて詳しいのは、一角獣を変質させた秘密結社と、一角獣を手懐ける資格を持ちうる一握りの調教師達にすぎなかった。
一角獣は今でも、誠実と貞節の象徴であり、霊薬としての角の価値もなんら変わることはない。
件の秘密結社では、処女との誓約手段の変化も「相手が承諾しさえすれば、苦しみもなく一瞬で安息を与えるのだから、慈悲深いことだ。」と嘯く。
これまで閉ざされていた一角獣の棲息地へたどり着く術を得た世界は、また一つ危険の種を抱え込むことになったのだ。

検証を終えて、その場を後にする一団の背中に野次馬の会話が届いた。
「あの娘は、いつもろくでなしの親父に殴られて酷い目にばかりあってきたんだよ。ユニコーンの花嫁になれたのなら、もう辛い目に遭うこともないだろうさ。
これでよかったのかもしれないよ。」
遺留品を握りしめた男は、その言葉を頭から閉め出すように激しく頭を振った。

あぁ、確かに辛い目には遭わないだろう。辛くない思いも、もうなにも感じることさえないんだから…。
喜びに駆られた一角獣の角が、その胸を刺し貫いた瞬間に、彼女が苦しまずにすんだことを、男は祈らずにはいられなかった。

2004年9月13日校了

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2005年3月23日 (水)

■UO■ 約束~Hallo,Again~

取引相手と別れてその場で身を隠すと(よかった今回は一発で隠れられた)と心の中で一人ごちながら、アルルはいつものように手荷物を確認して台帳に記入していった。取引が終わったことを掲示板へ書き込み、残高を更新する。ここまでが取引の一環なのだった。
時と場合によってはひとつの取引を終えた後にも、次の取引が待っていて残高更新もそこそこに次の取引場所へと向かう日もある。しかし、今夜は営業時間もとっくに過ぎて、取引も順調に終わり、他に声をかけられるのを待っている相手もいなかった。
「本日の営業、終了~」
連絡手段である端末の接続を解除すると、心なしか動きが軽くなった気がする。アルルは先ほど受け取った小切手を銀行へ預けるために、貸金庫を開くべく声を出した。その拍子に隠遁の術が解けて、透明なラマに乗った姿が銀行の壁を背景にして顕わになる。
「お久しぶり、元気そうね?」
途端に後ろから声をかけられると同時に肩を叩かれた。
いきなりのことに、開けかけた金庫の蓋を思わず取り落としてしまい、危うく指を挟むところだったアルルは、誰だか知らないがまずは苦言を呈してやろうと振り返った。…が、文句を言おうと思って開かれた口は、背後に立って満面の笑みをたたえている相手の顔を見ると、そのまま一言も発せず開きっぱなしになってしまった。
暗い色のふわふわした奔放な巻き毛に縁取られた笑顔の持ち主は、アルルにとってとても懐かしい人物だった。もう一度このブリタニアで会えるとは思っていなかった、けれど会えるものならどんなことをしても会いたい人だったのだ。
「どうしたの?そんな大口開けてると鳥が落とし物をしにくるわよ。」
「サミィさんっ!」
アルルはラマから飛び降りて、思わずサミィに抱きついてしまった。巻き毛が肌をくすぐる感覚が懐かしくて、アルルの目から鼻にかけて、刺激が通り抜けていく。
「久しぶりね、アルル。両替がんばってるじゃない。元気そうで何よりだわ。」
サミィの言葉に返すこともできず、アルルはただ頷いて回した腕に力をこめた。
「…あたた、痛いんですけど。」
「あっ…、ご、ごめ…」
慌ててサミィの体を離れると、その姿を上から下まで確認した。と、見た目ではなく以前と違う事に気づいた。
「あ…、名前が…」
「ふふっ、再起を機に名前を変えたのよ。これからは、今までの通り名があたしの名前よ。だから遠慮なく、どんどん「サミィ」って呼んでちょうだいね。」
そう言って笑ったサミィの顔は、出会った頃と少しも変わらなかった。あの別れることになった日のしばらく前から、彼女を包んでいた暗い雰囲気は跡形もない。アルルはまた目頭に刺激を感じて、大きく頭を左右に振った。
「本当にサミィさんなんだね。」
「そうよ~、ただいま。」
「おかえりなさい!」
アルルはもう一度、サミィの体に両腕をきつく巻きつけた。

ブリタニアで暮らすようになってから幾星霜、いろんな人たちと出会っては別れてきた。その場限りの出会いもあれば、そうならなかった縁もある。楽しいこともあれば辛く悲しいこともあり、それらの出会いを糧として、どう転んでもこの地で生き抜いていこうとアルルが決心したのは、そんなに最近のことではなかった。
サミィは印象的で、その場限りとならなかった相手の一人だった。

飛鳥のムーングロウにある綿花畑で綿摘みをしているところで行き会って、なんとなく喋っているうちに意気投合し、気がつけば何かと顔を合わせる間柄になっていた。サミィの屈託のない笑顔と、彼女が自分で「落書き」と呼ぶ略画がアルルを虜にしていた。
だからサミィが所属している組織の人間関係で悩み、傷つき、どこかで隠遁生活を送るつもりだと聞かされたときには悲しくてしかたがなかった。トレードマークだった巻き毛をすっぱりと剃り落とし、黒の濃淡の衣装に身を包んだ姿で挨拶に現れた時の驚きを、アルルは今でも忘れられない。あの時彼女はこう言ったのだった。
「この世から消えていなくなるわけじゃないの。…しばらく一人になっていろんな事を考えてみたいのよ。そうして自分の道がまた見えてきたら、きっと帰ってくるわ。」
彼女が姿を消してから、サミィの周りで家族同然に暮らしていた人たちもいつの間にか見かけなくなっていった。アルルにとって、サミィは誰かとの繋がりの象徴でもあった。

「乾杯~!」
賑わう酒場の片隅を二人で占領して、アルルとサミィは再会の杯を酌み交わした。
二人が囲む卓の上には、女二人には多すぎるのでは?と思われるほどの料理の皿が並べられている。久しぶりの酒場の食事はどれも食欲を刺激し、この数でも二人にはかなり絞り込んだ選択だった。…もちろん食べ切れなければ持ち帰るつもりの二人である。
「あなたが頑張ってるのは、あちこちで聞いていたのよ。ブリタニアじゃないところでも忙しいんでしょう?体は大丈夫なの?」
サミィはワインで赤く染まった唇をとがらせて問いかける。アルルはほおばったジャガイモ料理をエールで飲み下して頭をかいた。
「頑張りが足りないですけどね。何しろ営業時間が不規則なうえに短いんで、お客さんにもかなり不自由だと思うんですよ…。在日はボランティアで等価交換…っていうのも、最近は自分の都合優先の言い訳かなぁ…って思ったり。」
表情を曇らせて、コップを覗き込むように目線を落として考え込んでしまったアルルを、サミィは軽く小突いた。
「で、早くも空になったエールのお代わりをどうしようか、考えてるわけ?」
我に返ったアルルは、困ったように笑って、また頭をかいた。
「サミィさんてば…、もう~」
それからはもう次から次に話が尽きず、並べられた皿の料理の数々は、かなりの量のワインやエールに助けられながら、冷え切る前に二人の胃袋に消えていった。呂律も頭も回らなくなった頃、酒場の窓から空が明るくなっていくのを目の端にとらえると、朦朧と勘定を済ませ(少し多く渡したような気がしたのに、お釣りがないのはチップだと思われたのかな?)、お互い申し合わせたようにリコールを唱えた。
町外れの小さな塔に、二人は前後してたどり着いた。降り立った場所でわずかに先んじたサミィが一歩早く扉を開けた。
「まだフレンドのままにしてくれてたんだ~」
ふらつく足で転がるようにその扉の中へ入ったアルルは、またしてもサミィに抱きつく格好となってしまった。
「当然じゃないですか!」
二人は抱き合ったまま床の上に座り込み、そのひんやりとした感触を愉しみながらもう一度お互いを見つめ合った。
「おかえりなさい、本当に帰ってきてくれて嬉しいです…。」
「ただいま。約束したからね。でも、出迎えてくれる人がちゃんと居てくれたことも嬉しいわ…。」

すっかり酔いが回ってしまった二人はお互いの顔を眺めながら言葉少なになっていき、そのまま抱き合って倒れ込むように眠り込んでしまった。
たまたま訪れた共通の友人にサミィとアルルが揺り起こされて目を覚ましたその後は、ブリタニアの片隅が少々賑わしくなったとご想像下さい。

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