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2009年7月 9日 (木)

■遙3■ sequence ~ ただ一つ希う

「そうじゃなくて…」

 溜め息と一緒に吐き出された望美の落胆の台詞に、景時は困ったように眉尻を下げた。

「あ、ご、ごめんね、望美ちゃん…。だ、だってさ…」

 望美が景時に尋ねたのは、本人曰く「簡単な質問」。

「景時さんが一番欲しいものは何ですか?」

 それに対する景時のこの上もなく簡素な答えは。

「望美ちゃんが、欲しいもの。…かな?」

 微かに染まった頬を指先で掻きながら、締まりのない笑顔の景時を見上げた望美が呟いたのが、冒頭の一言だった。
 望美にしてみれば、いつもいつも自分の希望を優先させる景時の本音を聞いてみたかったのだが、聞きたいと思っていたものと違っていたが故の落胆だった。
 肩を落として俯いてしまった望美の頭頂をおろおろと見下ろしていた景時は、不意にしゃがみ込んだ。そして、これまでとは逆の視点で、俯いている望美の顔を覗き込むように見上げると、両脇で握りしめられていた手を取って、しっかりと目を合わせてから微笑んだ。

「ねぇ、望美ちゃん。オレが一番大事なものが何だかわかる?」

 赤くなった望美の頬と逸らされた視線は、景時の質問の答えを知っている証拠だった。それはいつも景時が口にしていることで、周知の事実といったところだった。望美の反応に笑顔を深くした景時は、嬉しそうに言葉を継いだ。

「そうだよ、オレにとってはキミが全てなんだ。キミが一番大事で、キミの願いが叶うことがオレの夢。」

握りしめている望美の両手に唇で触れる刹那だけ視線を落として、再び見上げた景時は続ける。

「オレが初めて、一番欲しいと願ったキミを手に入れられたら、…そりゃもう、オレがやるべき事はキミを幸せにすることだけでしょ。」

 普段、ちょっとしたことでも照れる顔を見せる景時が、あまりにも真っ直ぐな視線のまま語りかけてくるので、望美はどうしていいかわからなかった。ただ、直球過ぎる台詞はかなり恥ずかしく、望美の動悸は激しくなる一方だった。

「だからね、オレの先の答えは間違ってないよ。」

 それは望美も同じ事だ。
 景時のことが好きで、やっと一緒に居られる結末を手に入れたのだから、幸せでいて欲しいと望まないはずがない。いつもいつも、笑顔の裏で辛い選択を強いられていた景時に、もうあんな思いはさせたくなかった。

「…ありがとう、景時さん。景時さんがわたしと一緒に居てくれて、すごく、幸せ。」

しゃがんだ景時の肩に覆い被さった望美の唇が、イヤーカフをなぞるように掠めた。聞かされた言葉が嬉しすぎて、幸せに涙ぐみそうになった景時は、泣き顔を見られないように望美の肩口に顔を埋めて、自分よりもずっと華奢な身体を力一杯抱き締めた。

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