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2009年7月10日 (金)

■遙3■ sequence ~ ただ一つ希う

「一つだけ、ですか?」

「はい、そうです。経正さんだったら、何を持っていきますか?」

─無人島に一つだけ、持って行くものを選べるとしたら。

何を選ぶか、という質問。
 将臣には呆れられ、知盛や惟盛には眉を顰められ、重衡にはちゃんと相手にされていたのか確かではなかったが、望美は朝から顔を見た相手に手当たり次第、この質問に答えてもらうべく奮闘していた。

 望美の世界では珍しくもない設問だが、この世界では違う。なんとなく思いついて聞いてみたものの、相手の態度や答えが面白くなってしまい、望美は夢中になっていた。
 逡巡する、思い悩む、怪しむ、かと思えば即答してくる相手もいて、答え以上に興味深かった。

「人によって、こんなに持っていきたいものが違うなんて面白いですよね。」

 心底楽しそうな望美を見ていると、日頃から穏やかな経正の表情もより和んでしまうようだった。
 微笑ましく思いながら、望美の報告を聞いていた経正に、再び質問する声がした。

「それで、経正さんだったら?」

 期待に満ちた瞳を見開いて答えを待つ望美は、経正の瞳にはいつにも増して輝いて映っていた。
 だから恐らく、そのせいだったのだろう。
 経正自身も特に考えていたわけではなかったのに、答えは自然と口を衝いていた。

「では、私は神子殿をお連れしたいと思います。」

 にこやかに自信ありげに答えた経正を、驚いた望美は優に三拍の間は見つめていたに違いない。そして。

「えぇっ!?」

 一言叫ぶと、真っ赤になって狼狽えた望美に経正の笑顔が深くなった。

「いけませんか?」

「…っあ、あの、わたしなんか連れてっても、何の、役にも立たない…と思うんですけど…っ!?」

「そのようなことは、ないでしょう。」

しどろもどろになっていく望美に手を伸ばした経正は、その戸惑って握っては開くことを繰り返す指先を捕らえて、そっと握りしめた。

「貴女が一緒に居て下されば、飢餓も、寂寞も、空虚すらも感じることはないでしょう。」

経正の言葉に、必死になって首を振る望美の顔は、ますます赤い。

「一つしか選べない、と貴女は仰った。ならば、今のこの世でただ一つ、私に執着の鎖を繋ぐ貴女を望むのは…」

 握っていた手に経正が加えた力に均衡を崩し、望美は倒れ込むようにその胸へと引き寄せられていた。
 慌てて見上げた先にはあるのは、いつもと変わらない笑顔だったはずなのに、望美の胸は激しく騒ぎ出していた。

「至極当然の選択でしょう。…私は間違ってなどおりませんよ。」

─無人島であろうと無かろうと、二人きりになってしまったらきっと…他のことはどうでも良くなってしまうのかも知れない。

 ただ寄り添っているだけの経正の体躯に眩暈を覚え、今までになく焚きしめられた香に感情をかき乱されながら。望美は経正の微笑む目の中に映る自分を眺めて、ぼんやりと思う。
 今の望美にできるのはただ、それだけだった。

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コメント

何を持って行くか、という望美の問いに、返ってきたのは

・経典
・釣り竿
・美酒
・刀
・鉄鼠

だったとか。まぁ、誰がどれを持って行く、と言ったのかは…ご想像にお任せしますw

投稿: Sammy | 2009年7月10日 (金) 23時15分

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