■遙3■ sequence ~ ただ一つ希う
「一つだけ、ですか?」
「はい、そうです。経正さんだったら、何を持っていきますか?」
─無人島に一つだけ、持って行くものを選べるとしたら。
何を選ぶか、という質問。
将臣には呆れられ、知盛や惟盛には眉を顰められ、重衡にはちゃんと相手にされていたのか確かではなかったが、望美は朝から顔を見た相手に手当たり次第、この質問に答えてもらうべく奮闘していた。
望美の世界では珍しくもない設問だが、この世界では違う。なんとなく思いついて聞いてみたものの、相手の態度や答えが面白くなってしまい、望美は夢中になっていた。
逡巡する、思い悩む、怪しむ、かと思えば即答してくる相手もいて、答え以上に興味深かった。
「人によって、こんなに持っていきたいものが違うなんて面白いですよね。」
心底楽しそうな望美を見ていると、日頃から穏やかな経正の表情もより和んでしまうようだった。
微笑ましく思いながら、望美の報告を聞いていた経正に、再び質問する声がした。
「それで、経正さんだったら?」
期待に満ちた瞳を見開いて答えを待つ望美は、経正の瞳にはいつにも増して輝いて映っていた。
だから恐らく、そのせいだったのだろう。
経正自身も特に考えていたわけではなかったのに、答えは自然と口を衝いていた。
「では、私は神子殿をお連れしたいと思います。」
にこやかに自信ありげに答えた経正を、驚いた望美は優に三拍の間は見つめていたに違いない。そして。
「えぇっ!?」
一言叫ぶと、真っ赤になって狼狽えた望美に経正の笑顔が深くなった。
「いけませんか?」
「…っあ、あの、わたしなんか連れてっても、何の、役にも立たない…と思うんですけど…っ!?」
「そのようなことは、ないでしょう。」
しどろもどろになっていく望美に手を伸ばした経正は、その戸惑って握っては開くことを繰り返す指先を捕らえて、そっと握りしめた。
「貴女が一緒に居て下されば、飢餓も、寂寞も、空虚すらも感じることはないでしょう。」
経正の言葉に、必死になって首を振る望美の顔は、ますます赤い。
「一つしか選べない、と貴女は仰った。ならば、今のこの世でただ一つ、私に執着の鎖を繋ぐ貴女を望むのは…」
握っていた手に経正が加えた力に均衡を崩し、望美は倒れ込むようにその胸へと引き寄せられていた。
慌てて見上げた先にはあるのは、いつもと変わらない笑顔だったはずなのに、望美の胸は激しく騒ぎ出していた。
「至極当然の選択でしょう。…私は間違ってなどおりませんよ。」
─無人島であろうと無かろうと、二人きりになってしまったらきっと…他のことはどうでも良くなってしまうのかも知れない。
ただ寄り添っているだけの経正の体躯に眩暈を覚え、今までになく焚きしめられた香に感情をかき乱されながら。望美は経正の微笑む目の中に映る自分を眺めて、ぼんやりと思う。
今の望美にできるのはただ、それだけだった。
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コメント
何を持って行くか、という望美の問いに、返ってきたのは
・経典
・釣り竿
・美酒
・刀
・鉄鼠
だったとか。まぁ、誰がどれを持って行く、と言ったのかは…ご想像にお任せしますw
投稿: Sammy | 2009年7月10日 (金) 23時15分